今日はなかなか良い日

1限に行こうと思って8時に家を出る。この時間に家を出ても既に30分遅刻だ。でもこの授業、今日はたしかグループワークだったから、友達に謝ればいいやと思った。

駅に着いたら人があふれていて、ああ、今日も遅延か、と思った。こんなにも住人がいたものかと感心してしまうほど人がいた。とりあえずホームに停まっていた電車に乗る。しかし動かない。電車の中の暖房から出る暖かい空気が、乗客のいらいら、そわそわとした熱気と一緒になって、いやなにおいを発する。押しボタン式のドアによって閉じ込められたぎゅうぎゅうの車内は、我慢大会のようである。会社や学校に行けない人、みんなで、ドアの横のボタンを押して電車から降りて家に帰ってしまおうよ。この中にずっといるとお腹が痛くなりそうだ。

電車から降りる。一つ先の駅までとりあえず歩いた。その駅も人であふれていた。駅中のカフェに入ろうとしたが、満席である。しかたがないのですこし歩いたところにあるカフェに入る。ここもわたしが席についてからすぐに満席になった。

「アイスカフェラテください」

「お席はお取りいただいておりますか?」

あー、この人、この人知ってる。中学校のとき通っていた学習塾で、すこしの間同じクラスだった人。ほとんど会話を交わしたことはないが、この人の進学先の高校も覚えている。いまはどこの大学に通っているのだろうと一瞬考えたが、どうでもいい。そういえばさっき最初に行ったカフェでも、そこの塾で一緒だった人がバイトしている姿を前に見かけた。その人は有名大学の付属高校に受かっていたから、きっといろいろと上手くいっているんだろうな。

注文したアイスカフェラテを受け取り、席についてチューチュー飲む。今日は甘くしたいと思ったからガムシロップを一つと半分、入れた。甘くておいしい。

本を開く。山崎ナオコーラのニキの屈辱。昨日の夜、買ったのにまだ読んでないなと思って、今日の朝かばんに入れた。2時間半ほどで読了。本を読むのはそんなに速くはない。速めたいともあまり思わない。途中で好きなフレーズをアイフォンのメモに残しながら読んだ。とても好きな作品になった。自分が良いなと思う恋愛作品は毎回、ああ、やっぱりこうなっちゃうんだな、という感じに終わる。最後は自分の好きがみじめになって、終わってしまう。自分が長いこと恋愛できていないのは、きっとこうなるのが怖いからである。なんでできないんだろう、と阿呆なほど友達にぐちぐちいうのは、ひまつぶしである。本当はわかっている。でも、どうすればいいのかは分からないし、考えるのも、疲れる。

読み終わったので店を出ようと思う。電車はまだ遅れているのかな、と思ってツイッター路線名を検索する。くやしいけれど、こういうときにツイッターは便利である。まだ止まってる、むかつく、などいらいらしているツイートから、やっとに乗れるってなった瞬間にどうでもよくなったからアウトレット行くwといった、学校さぼった俺、悪い俺、俺、という、隠したいけど隠れきれていない自己承認欲求が丸見えのツイートまでもがヒットする。自分もその、俺、の仲間なのではないかと思ってぞっとした。1分前、32秒前、5秒前、とぞろぞろと並ぶツイートを上にスワイプしていくと、見覚えのある顔のアイコンを見つけた。また例の、中学のとき通っていた塾のクラスメイトである。その人のページに飛んで、画像を見る。中学のときは頭が良くてかっこよかったのに、なんだかチャラチャラになっていた。自己紹介のところには、大学名、サークルの名前と思われる英単語、などがずらずらと並べられていた。へえ、どうでもいいや。なんだか今日は中学校時代の塾と縁深いみたい。そんな日もある。

とりあえず店をでる。帰り際、中学の塾で一瞬一緒だった人に「ありがとうございましたあ、またおこしくださいませ〜」と言われた。マフラーでほとんど隠れている口から、ごちそうさまです、と言って小さく会釈する。

電車はまだ混んでいた。どうしても混んだ電車に乗りたくなかったので、遠回りして学校に行った。着いたのは3限の時間であった。3限に出て、1限のグループの友達に謝る。おい〜なんで来なかったんだよお、さぼり〜。ごめんごめん、遅延やばくてさ、というこの会話するの何度目だろうという会話をする。

授業が終わったのでバイトへ向かう。なんのために学校に来たのだろうと思うが、学校はすこし行くだけでも意味があるように思う。「今日自分は学校に行った」と思わせてくれるから。バイトの前に時間があったので、ブックオフに寄って次読む本を買った。バイトは今日も普通に終わる。

家に帰ると母はもう寝ている。父は飲み会のようでまだ帰宅しておらず、もう帰ってるの?というメールが届いていた。帰ってるよーと返事をするとすぐに、今日の麻雀は散々だった、気分悪い、と返ってきた。それにドンマイ!とだけ返してお風呂に入った。

今日はなかなか良い日であった。