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例えばの話

例えば、自分に彼氏ができたとして、なかなかかっこいい彼氏ができたとして、そしたらやっぱり、インスタグラムに写真をあげたくなるんだろうか。似たようなスニーカーを履いている日にはその足元を、一緒に写したくなるんだろうか。カフェに行って向かい合って座ったら、ブレンドコーヒーをブラックで飲むその手元の写真を撮りたくなるんだろうか。いつもは一人でする井の頭公園の散歩も、そのあとにマルイの無印でいっぱい試着するのも、彼氏と一緒にできるのかな。いいなと思った音楽も、映画もマンガも本も洋服も写真も全部、これ良かったよ〜って紹介できるのかな。子どもの頃抱いていた疑問とか、お母さんに言われたこととか、最近やったおっちょこちょい話とか、そんなどうでもいい自分の話もできるのだろうか。そんなことをなかなかかっこいい彼氏とできたら、やっぱり自慢したくなるのかな。自慢したくなって、インスタに写真あげて、高校の友人たちにばれて、照れ笑いでもするのかな。バイト先の人に、やっと彼氏できたんですよお〜って言って、写真見せて写真見せてって言われて、えええ〜〜全然、かっこよくないですよお!って言いながら一番かっこ良く撮れた写真を選りすぐって見せるのかな。そしてきっと1か月くらいたったら、彼の家に泊まりにいっていっぱいキスしてセックスして、心臓がとれそうなくらいバクバクして、ああ自分、しあわせだあって思うんだろうな。自分と彼氏以外の人のことなんてどうでもよくなるんだろうな。弟の受験のことも、友達の失恋も、いまよりもっとどうでもよくなる。

でも半年くらい経ったらお互いに慣れてきて、彼がなかなかかっこいいということにも慣れてきて、ドキドキしなくなったわあとか友達に言うんだろうな。キスもセックスも前より自然にできるようになったけど、きっともうその行為は、二人をつなぎ止めるために必要なこと、みたいなものになってるんだろうな。子どもの頃抱いていた疑問とか、お母さんに言われたこととか、最近やったおっちょこちょい話とかそういう話題も減ってきて、その代わりにどうでもいいことにイライラして、そのイライラが伝染しあったりしちゃうんだろうな。そしてちょうどその頃に、彼にかわいいバイト先かなんかの後輩の女の子が近づいてきて、自分には内緒で二人で飲みに行ったりするんだな。わたしはもともとそんなにかわいくないから、彼は、なんであんなやつとつき合ってるんだろう、こっちの子の方がいいやってなるんだろうな。そうして振られる。振られてまた一人になって、また一人で井の頭公園を散歩して、いつも見かけていた大きな犬を見て、あ〜今日もいたねえ、ほんとだかわいいね、って言ってた自分を思い出す。初めて彼の家に行って、心臓がとれそうなほどドキドキして抱かれたことを思い出す。そういうことを思い出してきっと一人で家で泣く。インスタグラムにあげた彼の破片も、全部消す。あの時あんなこと言わなきゃ良かったとか後悔する。いっそのこと死にたいって思うのかな。それか、もう自分の中で、なかなかかっこよかった彼を、大好きだった彼を、救いようの無い悪役に仕立てて友達にあいつありえないって陰口たたくのかな。友達に、よかったよ、そんなやつ、別れて正解って言われて、だよねだよね、そういえばあいつさあ〜って、つき合っていた頃はちょっとクセのあるところが好きと言っていたものを、否定しだすんだろうな。そんなことを言って元気になりながら、自分のみじめさに泣くんだろうな。

自分が一瞬でも大好きになった人のことを嫌いになるんなら好きにならないほうが良いと思ってしまう。せっかく好きになった人がいるんなら、その人とはずっと、その安定した好意を抱ける距離感を保っていれば良いと思う。かっこいいバイトの先輩は、困った時に助けてくれるスーパーヒーロー先輩のままでとっておいたほうがいいし、たまに行くスタバのイケメン定員はたまに自分を癒してくれる目の保養定員さんのままでいい。二人で飲んで楽しい人とは二人で会ったときに楽しく過ごせれば良いの。そういうふうに自分に言い聞かせて人を好きになるのを避けてきたら恋愛できなくなった。